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佐賀地方裁判所 昭和41年(ワ)146号 判決 1968年3月28日

原告 嘉村明雄

被告 佐賀県

代理人 日浦人司 外六名

主文

被告は、原告に対し、金一〇六万六、六六六円およびこれに対する昭和四一年二月二七日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、これを三分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

事  実<省略>

理由

一、被告が地方公共団体であつて、本件道路の管理者であること、そして、原告が昭和四一年二月二六日正午頃自己所有の佐一せ―一五九六号貨物自動車を運転して、本件道路上を進行中、その主張の地点で右貨物自動車もろとも同路面から嘉瀬川側数十メートルの崖下に転落したことは、いずれも当事者間に争いがなく、右転落のために原告が傷害をこうむり、かつ前記貨物自動車が破損したことは、(証拠省略)によつて明らかであり、これを覆えすに足りる証拠はない。

ところで、右事故の発生につき、原告は、前記請求原因三の(一)のとおり、それは被告の本件道路に対する管理に瑕疵があつたことによるものであつたと主張するのに対し、被告は、前記答弁ならびに主張五の(一)のとおり、それは原告の一方的過失によるものであつたと主張するので、この点について判断する。(証拠省略)を総合すると、前記転落事故発生当時、同事故現場付近の道路は、舗装されてはおらず、かつ同事故現場の路面は、軟弱ではあつたけれども、そのことを表示する標識等は存しなかつたものであるところ、右転落事故は、前記貨物自動車の右後車輪下の路面が崩壊したため発生したものであつて、その際、その後車輪は、路肩ではなくして、道路の有効幅員内数十センチメートル内側の地点上にあつたことを認めることができ、これに反する(証拠省略)は、いずれも前記各証拠に照らして採用することができず、(証拠省略)をもつてしては、右認定を覆えすに足りないし、他にその認定を左右すべき証拠はない。しかし、その余の原告の右主張事実については、これを認めさせるに足りる証拠はない。

およそ、道路の管理者たる者は、道路を常時良好な状態に保つように維持し、修繕し、もつて一般交通に支障をおよぼさないように努めなければならないものである(道路法第四二条)ところ、以上認定の各事実をあわせ考えると、地方公共団体であつて、本件道路の管理者である被告の右事故現場付近の道路に対する管理に瑕疵があつたため、本件事故が発生するにいたつたものと認めるのが相当である。

そうすると、被告は、国家賠償法第二条第一項にもとづき、原告に対し、本件事故によつて生じたその損害を賠償すべき義務があるものといわなければならない。

もつとも、被告の原告に対する損害賠償責任は、右のとおりではあるが、(証拠省略)を総合すると、本件事故発生当時、原告は、前記貨物自動車に、その最大積載量六トンをはるかにこえる重量の砂を満載し、しかもその前方左側(その右側崖下が前記嘉瀬川)の路上には、自動三輪車が停車していて、その自動三輪車の運転手が、右貨物自動車の進行してくるのを認め、これとの安全な離合をあやぶんで、同自動三輪車を危険のない地点まで移動させるべく、その運転台に乗り込んでいたものであつたこと、当時前記事故現場から五〇メートルばかり先には、自動車が安全に離合できるほどの道幅の場所があり、原告も、そのことを知つていたこと、にもかかわらず、原告は、右自動三輪車を認めながら、その右側を安全に通過できるものと軽信し、そのとおりの通過をしようとして、漫然と前記貨物自動車を同所道路右側に寄せた(その右後車輪が前記のとおりの地点)ためその重量により、前記のとおりそこの路面が崩壊して(そこの路面が当時軟弱であつたこともまた、前記のとおりである。)本件転落事故が発生するにいたつたものであること、以上の各事実(被告の右主張事実のうち)を認めることができ、これに反する(証拠省略)は、いずれも前記各証拠に照らして採用できないし、他に右認定を動かすに足りる証拠はない。右のような場合、原告の立場にある者のとるべき処置としては、前記自動三輪車を離合安全な場所まで移動させてもらい、その地点で同自動三輪車と離合するなどして、右のような転落事故などが発生しないよう、注意して前記貨物自動車を運転しなければならないはずであつたものというべきであるところ、右認定事実によると、原告においては、そのような処置をとることなく、前記自動三輪車の右側を通過しようとして、漫然と右貨物自動車を同所道路右側に寄せたため、その重量により路面が崩壊して、本件転落事故が発生するにいたつたというのであるから、同事故の発生については、原告自身にも、右のような過失が存したものと認めるのが相当である。

二、そこで、原告主張の前記四の(一)ないし(五)の各損害の有無について判断する。

(一)、右四の(一)の入院治療費金一万九、二〇九円について

(証拠省略)を総合すると、右四の(一)の原告の主張事実を認めることができ、これを左右するに足りる証拠はない。この事実によると、その入院治療費金一万九、二〇九円は、本件事故によつてこうむつた原告の損害ということができる。

(二)、同四の(二)のタクシー料金一、三〇〇円について、

(証拠省略)を総合すると、右四の(二)の原告の主張事実を認めることができ、これを覆えすに足りる証拠はない。この事実によると、そのタクシー料金一、三〇〇円もまた、本件事故によつてこうむつた原告の損害ということができる(けだし、兄が妹の使用したタクシーの料金を支払つてはならないいわれはなく、本件の場合、原告によるその支払いは、右事実関係からすると、必要にして、かつ当然の域を脱するものではないからである。)。

(三)、同四の(三)の貨物自動車の破損による減損額金七三万円について

(証拠省略)を総合すると、前記貨物自動車は、原告が昭和四一年二月一〇日(本件事故発生の日が、それからわずか後の同月二六日であつたことは、前記のとおりである。)に自動車販売業者(株式会社)から代金八五万円で購入したものであつたところ、本件事故により使用不能となつた(もつとも、本件事故により破損したことは、前記のとおりである。)ため、原告が止むなく他の車と買いかえる際に、自動車販売業界で一般に慣例として行われている査定方法により、右業者から査定額金一二万円でいわゆる下取りしてもらつたことを認めることができ、これを動かすに足りる証拠はない。

この事実によると、右購入価格と同下取り価格との差額であることが計算上明らかな金七三万円は、これまた、本件事故によつてこうむつた原告の損害ということができる。

(四)、同四の(四)の貨物自動車の引揚費金八万四、〇〇〇円について

(証拠省略)を総合すると、右四の(四)の原告の主張事実を認めることができ、これを左右するに足りる証拠はない。この事実によると、その貨物自動車引揚費金八万四、〇〇〇円もまた、本件事故によつてこうむつた原告の損害ということができる。

(五)、同四の(五)の慰藉料金七六万五、四九一円について

(証拠省略)によると、原告は、現在(昭和四二年八月三一日の第二回原告本人尋問の当時)、三一歳であつて、石材販売業等を営み、本件事故当時は、平均して一ヶ月につき金二十余万円程度の純益をあげていたのであつたが、本件事故による前記受傷のため、止むなく昭和四一年六月末日ごろまで休業したこと、そして、原告の前記入院中は、原告の母がほとんど泊りきりで原告の付添看護にあたつたこと、および本件事故によつてこうむつた原告の精神的打撃は、甚大であつたことをそれぞれ認めることができ、これを覆えすに足りる証拠はない。しこうして、これらの事実に前認定の各事実その他本件記録にあらわれている一切の事情を総合して斟酌すると、本件事故によつてこうむつた原告の精神上の苦痛を慰藉するためには、少くとも金七六万五、四九一円(原告の請求による)を下らないものと認めるのが相当である。

(六)、そうすると、原告は、本件事故によつて、右(一)ないし(四)の各金額の合計額であることが計算上明らかな金八三万四、五〇九円の財産上の損害と、同(五)の金七六万五、四九一円の精神上の損害を受けたものということができる。

(七)、ところで、本件事故の発生については、原告自身にもまた過失が存したことは、前記のとおりであり、前認定事実からすると、この原告の過失もまた、本件事故発生の大きな原因となつていることが明らかであるところ、原告の過失と、被告の前記の管理の瑕疵とは、前認定事実からして、前者が一、後者が二の原因力を有していたものと認めるのが相当であるから、この割合にもとづいて原告の前記各損害額から控除をすると、その財産上の損害については、金五五万六、三三九円(一円未満は、五〇銭未満となるから、切り捨てる。)となり、精神上の損害については金五一万〇、三二七円(これも、一円未満は、五〇銭となるから、切り捨てる。)となることが計算上明白である。

三、してみると、被告は、原告に対し、右各控除残額の合算額であることが計算上明らかな金一〇六万六、六六六円およびこれに対する昭和四一年二月二七日(前記の本件事故発生の日の翌日。原告の請求による。)から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があるというべきであるから、原告の本訴請求は、被告に対し右金員の支払いを求める限度においては、正当としてこれを認容すべきであるが、その余の請求は、失当としてこれを棄却すべきである。

四、それで、訴訟費用の負担については、民事訴訟法第八九条、第九二条本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 桑原宗朝 人見泰碩 新崎長政)

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